劇団スポーツ 田島 実紘
①右手の人差し指で、空中に正三角形を描く。
②その正三角形を囲むように、今度は左手の人差し指で、円を二回描く。
③右手の人差し指と親指、左手の人差し指と親指を使って三角形を作り、天にかざす。
④その状態で「からぱむまみや、まみやからぱむ」と唱える。
以上。
満月の夜にこの行程を踏むことで、北北西の方角から一柱の光の柱が現れ、円盤状の飛行物体に乗った「からぱむ星人」があなたを次の新世界へと誘うだろう。
…お願いします「からぱむ星人」。
あなたたちのことをずっと考えて、信仰を抱き、徳を積んでここまで来ました。
だから次の満月、UFOという名のノアの箱舟で、僕をこの世界から連れ出してください。じゃないと僕は、この世界に染まってしまうから。
『僕らの爽やかな深爪』は、2021年11月3日から2021年11月7日にかけて王子小劇場で上演された作品です。テン子は、良い年をしてフリーターをやりながら、クズ男ガチャを回してダメ男と付き合っては別れる毎日。ある日、失恋の腹いせに友人と三人でドライブに出かけたところ、一人の男子高校生を車で轢いてしまいます。その時、彼が車に轢かれて意識が飛び行く中、目の前に光の柱が現れ、そこから出てきた少女と出会い、手を握って恋に落ちます。高校生はその後、その少女を友人たちとともに探しますが、なんとその子は隣のクラスにいたのでした。高校生はそこから必死にアプローチを試み、一方テン子は学生時代の同級生と出会うのですが、フリーターである自分とはかけ離れた社会的ステータスを持っており…。
…意味わかりますか?大丈夫です、僕も書いててよくわかりません。でもこの「飛び方」が良いんです。
僕らも、「山から降りてきた少年とベンチャー企業の社長の話」、とか、「茶道部に乗っ取られていく軽音部の話」とか、「鹿の剥製がお腹に刺さって死んじゃった女の子の話」とか、大概“飛んでいる”方だと思うのですが、この作品を見るとまだまだ「飛び方」が足りなかったなと思います。このフライヤーの方々もだいぶ飛んでおります。
この作品は大きく分けて三つのグループの話が混ざりあって進行していきます。一つは、ニコニコしながら楽しいことだけに目を向けて生きている主人公テン子とその友人。一つは、光の柱から出てきた少女に恋する男子高校生と、その友人。そしてもう一つは、光の柱から出てきた少女と、その姉です。
貧困層と富裕層との狭間で、双方の光と闇を描いていく作品は数あれど、『僕らの爽やかな深爪』はそんなところにはとどまりません。
主人公・テン子が最終的に選ばなければいけないのは、「友人たちと楽しくコンビニでお酒を買ってその日暮らしをする生活」か、「宇宙船チャレンジャー号(HPより引用)に乗ってこの世界から旅立つ」かのどちらかです。
しかもこの「宇宙船チャレンジャー号」、明るくて優しい人ってだけだと乗り遅れてしまうらしいです。
キャッチーな言葉と情熱的なリリックで描かれていく厳しい現実。そうですよね、優しくって明るいだけじゃあ、資本の波には乗れません。狡猾に、抜け目なく、それでいて敵を作らず、着々と歩んでいける人だけが「宇宙船チャレンジャー号」の乗船許可を与えられるのでしょう。
でもそれだけでもダメなんです。育った環境、親の年収の差…。そういった生まれながらに存在する、どうしようもないものもその中には含まれていて、選ばれるものと選ばれないものの間にある溝は底が見えないくらい深い。
「あなたの言葉はわからない」というセリフが出てきます。
双方しゃべっているのは確かに日本語なんです。でも、やっぱり「あなたの言葉はわからない」。僕たちの間を阻むのは、決して言語なんかではないことは、昨今の社会情勢を見ていても痛感させられます。
人類史は暴力の歴史です。僕らの間にある深い溝を埋めることは限りなく不可能に近いのかもしれません。
でもそれでも、やっぱり言葉を紡ぐことをやめちゃいけない。作家としても、一人間としてもそう思います。綺麗ごとでしょうか。
僕が小学生くらいの頃までは、テレビで「UFOついに発見!」みたいな番組がやっていましたが、露程の興味もなかったです。ワイプに映る芸能人がわざとらしく反応するのを鼻で笑っていました。
でも今は、思うんです。UFOいてくれって。じわじわと見えない闇に体を蝕まれていくような感覚。すぐそこにある死にたさから懸命に目を背けて、自分の成長や目に見える数字や成果だけに縛られていく息苦しさ。未確認飛行物体を追い求める人たちの中にあるのは、そういったものから切り離されるための切なる祈りなんじゃないかって。
祈るってことは、思考停止なんかじゃない。あの選択を選び取り、あの結末を迎えた『僕らの爽やかな深爪』の彼ら彼女らが、その後どういう人生を辿ったのかを夢想しながら。僕は今日も天に祈りを捧げて、世界平和と万馬券を願います。「からぱむ星人」、どうかこの世界を救って、僕を連れ出してください。
2022年4月15日(金)~18日(月)
@王子小劇場
作・演出 河村慎也
【キャスト】赤猫座ちこ(牡丹茶房)、板場充樹(猿博打)、市川賢太郎(肉汁サイドストーリー)、今井未定、河村慎也(南京豆NAMENAME)、北本あや、佐藤友美、田久保柚香、田平マサヤ、藤本康平
【チケット料金】
一般 3500円
U22 2800円 ほか
【はしご割について】
★全券種適応可
【チケット予約】https://ticket.corich.jp/apply/120710/
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