劇団スポーツ 田島 実紘
「夜道に寄り添ってくれるのは月だけです。」
とある仕事で何気なく書いたその一言を、すごく褒められた記憶があります。
田島君は詩人だねって。
その人曰く、夜道というのは私たちが人生で遭遇する様々な壁や、戸惑い、哀愁を表現していて。月「だけ」というところもよくて、切なさを助長しながらも、希望も見えて良いって。レトリックだよって。
でも僕は、本当にシンプルに夜道を想像しながら、ずっとそばにあるのって月だけじゃんって思って書いただけで、そんなに深いことは考えてもみなかったし、褒められたあとも、あんまりピンと来ませんでした。
なぜなら僕は、今まで生きてきた人生の中で、日記を書いたことはおろか。
詩を書いたことなんて一度もありませんし、「サラダ記念日」しか読んだことがありません。
そんな僕でさえ、
「どうして今まで自分は一度も詩を読んだことがなかったんだろう」と、この作品を見ていると思わされます。
複合創作ユニットwakka、「Gregorius “面影”」は、2020年12月11日から13日まで東京・Mistress bar Guernicaで上演された作品です。
ポエトリーリーディングと演劇の融合を試みた作品で、グレゴリー・コーソの作品と人生から影響を受けたとのこと。(ステージ・ナタリーより)
ステージ上にあるのは、簡素な椅子とソファー。
そしてマネキンが亀甲縛りをされている横に並んでいる様々なSMグッズが置かれています。
前半は「土まみれの手」、後半は「人間賛歌」という二部制になっており。
登場人物たちが、詩を読みながらセリフをしゃべり。紙を一枚もって、文字通りのポエトリーリーディングと、演劇上の芝居のセリフとが織りなされていきます。
「土まみれの手」では、
大人になりたくない20歳を目前にした姉妹の会話と。
子供扱いされたくない少年と、白衣を来た女性との会話が交互に繰り返されていきます。
詩は、その言葉が織りなす背景に様々な情景を提示していきながら。
その連続性が、彼ら彼女らの辿ってきた人生、これからの困難をこちらに想起させていきます。
社会的な問題提起ではない個人の詩も、当然かもしれませんが見ている側を雄弁にさせるのだなと強く思いました。
例えば、「土まみれの手」において少年が母親に、手が汚い、という理由で外に放り出されるところから始まるのですが。
それを聞いて僕は、9歳くらいのことを思い出しました。
当時僕は母親に、「部屋が豚小屋のように汚い」と言われて、マンションの地下の倉庫に閉じ込められたんです。
今は自分で書いててちょっと笑ってしまうくらいですが、一番身近だと思っていた母親から清潔感などの生理的なところで否定されるって、結構来ます。
マンションの地下倉庫は、101から909までの各部屋の倉庫がパーテーション上で仕切られている巨大な空間で。
僕はその中の「507」と書いてある部屋に閉じ込められて、真っ暗闇の中で本当に何分かだけ閉じ込められてしまいました。
最初は、悲しくて怖くてずっと泣いていましたが、暗闇に目が慣れてきたころ。
僕は9歳という若さで、泣くのに飽きてしまいました。脚本だったら、その体験をもとに暗闇に対してのトラウマが植え付けられた、というような展開を考えますが。
なぜだか僕はその時、暗闇に対して安心感を覚えて怖さもなくなり、倉庫にあった自転車のハンドルみたいのでずっと遊んでました。
僕の中の、「初めまして暗闇」体験。
自分の中の記憶が、閉じ込めていた感情が、登場人物の織りなす詩によって次々と呼び起されていきます。
中には、経験したことが無いのにあたかもそれを体験したことがあるようなことを思わせてくれるものも。人が歩んできた様々な道のりが、ストーリーであってストーリではない何かが、演劇と詩の隙間から頭の中に流れ込んでいきます。
…と、雄弁に書き綴りましたが。
こんなことを書いてもしょうがないんです、おそらく。
だって詩には詩で返すのがきっと一番だから。僕の大好きなMCバトルのラッパーたちも、こんな長々とした文章で返答してたら16小節が何個あっても足りないです。
だから今日は、僕が生まれて初めて書いた詩で、しめさせていただきます。
やめられないのは トッポだけじゃない
キットカットにも きっと勝てない
でも僕からしたら
ガルボも やめられない
ガルボには
なんのフレーズもないのに
やめられない
発売当初からずっと やめられない
ガルボは
トッポより
…強いよ
お酒は やめた
四肢の麻痺がひどくて やめた
でもまた飲みたくなって
なんかまた飲んだ
お酒は
ガルボより弱いのに
やめられない
だから僕は
一生 ガルボを やめられない
ガルボ
ガルボ
ガルボ
二つ名無き強者よ
今日の夜飯も
君に決めた
…助けてください。(ポケモンレジェンズアルセウス、とっても楽しいです。)
全然しまりませんでした。
複合創作ユニットwakkaの詩は、僕の書いたものより一億倍も良いのでご心配なく。
映像の販売もあったのでリンクを乗せさせていただきます。
複合創作ユニットwakka ショップ
https://wakka.booth.pm/
でも本当に不思議なもので、劇団スポーツの作品とは似ても似つかないのに、詩という側面から自分たちの作品を見直すと、なぜだか詩の匂いが香ってきたりする。
きっと全員の中に詩人性みたいのはあって、人はみんな詩人なんだと思います。
…一度も詩を詠んだことがなかった僕の有り体の言葉で、今度こそ本当にしめさせていただきますね。
今宵も月があなたに寄り添ってくれることを祈って。
2022年3月24日(木)〜27日(日)
@王子スタジオ1
作・演出 齊藤航希
【キャスト】鈴木里久、すみたしおん(劇団木霊)、根井、松葉麻里花、川合凜:strain [α] ※、齊藤航希:strain [β] ※
※ ダブルキャスト制
【チケット料金】
一般 1000円
学生と未就学児 800円 ほか
【はしご割について】
一般料金のみ可、200円引き
【チケット予約】https://www.quartet-online.net/ticket/jmlbxeh
HP→https://wakkakamuy.wixsite.com/wakka
Twitter→https://twitter.com/HeperKunne
田島がクリエイティブパートナーをつとめる、劇団スポーツ『怖え劇』が気になる方はこちらをチェック!チケット発売中!