死にたさについて―演劇プロジェクトroute.©『戯れ、ゴト』を観て

劇団スポーツ 田島 実紘

日本の令和2年の自殺者の合計は、Googleで調べたところによると21,081人。
劇中で度々出てくる話なのですが、これって多いのでしょうか、少ないのでしょうか…?

人口10万人あたりの自殺者数は、18.475人。
世界ランキングだと、172ヵ国中18位らしいです。

世界基準で見ると確かに「多い方」ではあるのでしょう。

とはいえ、いまいちピンとこない。現状の日本という大きな社会、そして自分をとりまく小さな社会に対しての感じ方によって、これを多いと考えるのか少ないと考えるのかは、人それぞれかもしれません。

演劇プロジェクトroute.©『戯れ、ゴト』は、2021/1/26 (水)~ 2021/1/31 (月)にかけて王子スタジオ1で上演された作品です。
ラブホテルに来た少女二人のうちの一人が、自殺をするまでのお話。二人の他には三人のバックダンサー(と定義して良いのかわかりませんが)がいて、度々出てくるアンデルセン童話の『人魚姫』のお話や、自殺する少女が書いたこれまでの日記の内容を、ダンスとセリフで表現していく構成です。

「ひねくれ者よ、可愛く、世界を創れ」を合言葉にしているだけあって、出てくるもの全てが本当に可愛いです。

知育菓子が好きだという設定、『人魚姫』の泡を表現しているシャボン玉、登場人物の名前、喋り方、衣装、舞台、どれをとっても「可愛い」というものに対しての強いこだわりを感じました。劇団スポーツが団体自体に一貫している特徴としては、「思いついたことを舞台上で喋る」というセリフを覚えていない言い訳をそれっぽく表現しているだけなので、しっかりとしたコンセプトがある団体は羨ましく思います。

少女が自殺をするまでという、一見すると救いのないバッドエンドが様々な種類の「可愛い」で彩られていて、まさに独自の世界が形成されています。

話は逸れますが、僕らも王子スタジオ1で公演したことがあります。王子スタジオは、車の音などの外の音がすごい聞こえるんです。そういった環境音をどう演出にくみこむのか、それとも全く無視するのかということはきっとどの演出家も頭を悩ませると思うのですが、ラブホテルという設定と車の音が妙に親和性があって個人的に良かったです。環状線上のラブホテルとかだと、車の音ってやけに聞こえてきますよね。ラブホテルっていう場所のファンタジー感と、車の音という生活音が入り乱れると、いつも心が不安になるのを思い出しました。

この自殺をする少女、どうしてこのようなことを思い立ったのか、というバッククラウンドが実は作中ではそんなに語られません。むしろ多くが語られるのはもう一人の少女の方。この少女は学校でいじめられていたりだとか、いつもかばんにカッターを持ち歩いているだとか、残される方の人間のことは多く語られていきます。

でもそれは、人によっては救いだと思っています。
人が自分で命を絶つ理由はたくさんあります。いじめ、借金、失恋、健康、職場の人間関係、家庭環境などなど。でもその中の一つに、「なんとなく死にたいから」というものもあって。

僕は生まれた時から家庭環境に恵まれていて、学校でもいじめられていなかったし、バスケットボール部ではキャプテンで、ジャズピアノをたしなみ、親にもよく愛されました。それでも本当になんとなくずっと死にたかった。でもそういう人って、自分はそんなことを考えてはいけないと思ったりするんです。家庭環境も恵まれてて、人間関係も何の問題もなく、やりたいこともできている自分が「死にたい」なんて思ってしまうのは、本当に良くないことだって。

そういう人達にとって、自ら命を絶つ側の理由が多く語られない作品っていうのは「なんとなくの死にたさ」を肯定してくれる救いなんです。死にたさに明確な理由なんて無くていいんだよってことを教えてくれる。死にたいと思っている自分を責める気持ちが無くなって、心を快方に向かわせてくれる時があります。

「普通のハッピーエンドじゃ幸せになれない人の為のハッピーエンドを生み出す創作団体」(HPより)

まさにこの言葉を体現しているような終わり方だなと、僕は勝手に自分の経験と照らし合わせて感じていました。

実は劇団スポーツも、ハッピーエンドって本当に少ないんです。大抵はいつもバッドエンド、それをコメディとポップな雰囲気でなんとなくハッピーエンド風に見せているだけ。はしご割との親和性も意外とあると思います。是非、劇団スポーツの後は、演劇プロジェクトroute.©をご覧ください…!

演劇プロジェクトroute.© 『放課後、ミドルノート』

     
2022年4月14日(木)~17日(日)
@王子スタジオ1
作・演出 平安咲貴

【キャスト】まひたん、小練ネコ(ミュージカル団体sorciere)、安田舞佳、くつかけまな(晴れでも長靴)、西田アツヒコ、小泉日向、ゆでちぃ子、木山りお(怪奇月蝕キヲテラエ)

【チケット料金】
一般 3500円
学生 2800円 ほか

【はしご割について】
★全券種適応可

【チケット予約】https://www.quartet-online.net/ticket/tga9vrr

HP→https://routemaruc8.wixsite.com/mysite
Twitter→https://twitter.com/routeCCC


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