劇団スポーツ 田島 実紘

僕には故郷と呼べるような故郷がありません。

父の仕事の都合上、転勤族だったので世界中を転々としていました。横浜、ロンドン、川崎と移って、10歳からはずっと東京に住んでいます。

劇団スポーツでは内田と共に脚本を話し合いながら書くのですが、そこでよく内田がこんな例え話を出すんです。

「例えば田舎にイオンができることで、地元の商店街の人たちともめる話ってよくあるじゃん。ずっと守っていきたい街の風景って誰しもにあるから、みんな共感しやすいと思うんだよね。だからこの役は、変わらない街を守りたいみたいな動機があって良いんじゃない?」と。

僕はそれ、理屈ではわかるんですけど全く共感できなくて、いつもなんとなく却下しちゃうんです。だって僕が育ってきた環境は、街も、人も、常に移り変わるもので、変わっていくことが当たり前だったから。変わらないものを守りたいっていう感情が、よくわからない。

でもこの作品を見た後は思います。

あぁ、僕は故郷がある人に嫉妬してたんだなぁって。

『意味なしサチコ、三度目の朝』は、2021年8月5日(木)~8月8日(日)に花まる学習会王子小劇場(当時)で上演された作品です。

舞台となるのは、秋田県能代市。劇中でもセリフがありますが、バスケをやっていた人なら「おっ」となる街。バスケの強豪、能代工業があることから、別名バスケの街とも言われています。とはいえ、バスケの街にはバスケが強いこと以外に際立った特徴はなく。少子高齢化や過疎化が進み、主人公が住んでいた団地も取り壊しが決まります。東京で夢破れ、派遣をしながら暮らしていた主人公は、団地の取り壊しに伴い実家に帰省し、そこで目をそむけていた故郷のあれやこれやと向き合うことになるのですが…。

もう本当に、「さわやか!あざやか!泣く!」。全編秋田弁で、モノローグ調で語られていくのですが、笑いあり、ダンスあり、涙あり。喚き散らしたくなるくらい鮮やかに、登場人物たちが物語を明るく彩っていきます。

テンポ感や間をすごく大切にしているなということが伝わってきましたし、キャラクター性の強い登場人物たちが本当に見ていて楽しいです。劇団スポーツだと、内田が突如として脚本にないことを喋りだしちゃうし、演出もくそもなくなる瞬間が多々あるので、かるがも団地さんのようなリズム感あふれる劇とセリフには、憧れのような気持ちがあります。八王子のご当地アイドルのダンスシーンも、何度も繰り返し見てしまいました。今後しばらくは、人生に嫌気がさしたらこのダンスを見て生きていこうと思います。

とはいえ人生って、山あり谷ありです。変わらないものも確かにそこにあるけど、人はどんどん歳をとって、色んなことを経験して色んなことを忘れていく。

人は二度死にます。肉体が滅びた時と、誰かに忘れられた時。

僕は中学生の時、バスケ部の同期が一人亡くなりました。ある日登校すると、授業の時間が中止になって急に僕らの学年だけホールに集められて。何事かとざわざわしていると、その悲報を聞かされました。実感がなくてずっと涙は出なかったけど、お通夜の時に彼が好きだったビートルズの「Let it Be」が流れていて、そこで初めて少し泣きました。

僕は、その時に彼のことを絶対に忘れないって強く思ったんです。毎日毎日思い出そうって。でもそれこそ、僕たちの周りは目まぐるしく変化していって、人間関係も、街も、ステータスも、日々の喧噪の中で、思い出さない日は増えていき…。

僕はこの『意味なしサチコ、三度目の朝』を見るまでもう何か月も思い出していなかったような気がします。でも良いんです、毎日思い出さなくたって、こうしてことある事に思い出すことができれば。もうどんな声をしていたかは覚えてないけど、自由が丘駅で偶然あったことも、レイアップの変なフォームも、彼が座っていた席も、まだ全部覚えています。

僕には確かに故郷はないけど。それでも、横浜に住んでいたころの、あほみたいに長いマンションの階段。イギリスで仲良くしてた、髪の毛が真っ白のオリバーと、頭がよかったトム。川崎の社宅でずっと一緒に遊んでた、山田君とあやかちゃんとちひろちゃん。全部全部まだ覚えてて、その一つ一つが僕の故郷です。この目まぐるしく変わっていく世の中でも、その思い出だけは絶対に変わらないから、覚えてる限りどこまでも連れて行こうと思います。

「これは、私、秋林幸恵の話であり、私の生まれ育った街、能代の話であり、私の友達、サチコの話です」

上演台本がnoteで販売していたので、リンクを載せておきます。

第5回公演『意味なしサチコ、三度目の朝』上演台本
https://note.com/karugamodanchi/n/nbe4f067e5e60

かるがも団地の完璧なリズム感と、劇団スポーツのめちゃくちゃなリズム感をはしごすれば、あなたの演劇音感も養われること間違いなしです。

かるがも団地 『なんとなく幸せだった2022』

     
2022年3月31日(木)〜4月3日(日)
@北とぴあカナリアホール
作・演出 藤田恭輔

【キャスト】北原州真、冨岡英香(もちもち)、信國ひろみ(バケツまみれ)、森将人、中嶋千歩、遠さなえ(あっかんベイベ)、谷川清夏(1999会)、岡本セキユ、宮野風紗音(かるがも団地)、古戸森陽乃(かるがも団地)*
*声/映像出演

【チケット料金】
一般 3000円
学生 2500円 ほか

【はしご割について】
一般料金、学生料金のみ可

【チケット予約】https://www.quartet-online.net/ticket/karugamosakichi2022

HP→https://www.karugamodanchi.com/
Twitter→https://twitter.com/karugamodanchi


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